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防災コラム「透明なお守り」Vol.5

プロローグ

5月も半ばともなるとすっかり初夏ですね。 今年の大型連休はどのように過ごされましたか?久々に少し遠出をし、観光やレジャーなどを楽しんだ方も多かったのではないでしょうか?

3年前の今頃といえば、47都道府県すべてに発令された「緊急事態宣言」により始まった「ステイホーム」が各地でようやく解除され始めた頃。また、その翌年も同時期に2度目の宣言が発令され、せっかくのゴールデンウィークは2年連続で積極的に外出することは控える事態となりました。

長くコロナ禍を経験し、多くの我慢を強いられてきたからこそ、まだまだ完全とは言えないものの、今年は普段より羽を伸ばし、のんびりと自由に過ごすことができた方もたくさんいらっしゃったかと思います。

ところで・・・その時、あなたは意識していましたか?

「もし今、ここで、大きな地震や火災が発生したら?」

先月の【新生活と防災】でも述べましたが、慣れない土地に身を置く時は、必ずその場所での防災に関する情報を早めに入手することをおすすめします。

特に、宿泊を伴う場合、夜間や就寝中に災害が発生する可能性を想定しておくことが重要です。普段とは違う場所で長時間過ごす場合「最低限の防災チェック」を心がけることは大事な防災行動のひとつ。

例えば、建物の非常口や避難ルートの確認、付近に海や川や崖などがあるか、津波や川の氾濫などによる水害の際、避難できる高くて頑丈な建物はどこにあるのか?など「もしも」に備えられるよう意識することが大切です。

奇しくも先日、ゴールデンウィークの最中に石川県能登地方で震度6強の地震が発生し、北陸旅行を楽しんでいた多くの方も、一瞬にして恐怖や不安に襲われる事態となりました。さらに、その直後には全国の多くの地域で大雨や豪雨に見舞われ、水害被害やその影響を受けた地域も多数あったことは記憶に新しいかと思います。

「旅先で災害に遭う」ことは、決して想定外ではないということを改めて心得ておくことが大切です。

さて、今月のコラムでは前回の「新生活と防災」の際にも少し触れた【ペット】にスポットを当て、災害時の「同行避難」や「ペットの命と人の心を守る」ことについてご紹介します。ペットと一緒に生活している方はもちろん、そうでない方にも是非ご覧いただき、「ペットや動物の命を守る」という視点から防災・災害への理解や知識を深めてもらえればと思います。

そして後半は、今回も東北被災地レポートの続きです。今月は「岩手県・前編(大槌町)」をお届けします。

それでは、長編防災コラム【透明なお守り】Vol.5 スタートです!今月もお時間ある時に、あなたのペースでゆっくり、じっくり、少しずつ、お読みください。

透明なお守り

過去の災害を正しく知り、次の災害へ備えることで守られる命・生活・未来・・・

防災・減災には、2つの【袋】が必要です。
1つ目は、災害避難グッズを詰め込んだ【防災袋】2つ目は、防災・災害の知識や情報、考え方や向き合い方など「心の準備」を詰め込んだ【透明なお守り袋】

防災・災害に関する基礎知識はもちろん、過去の被災地や被災者から学ぶ “あの日” と 被災後から今日までの時間経過の中でこそ見えてくる現地や当事者の経験や心の声(本音)を少しでも理解することで、あなたの“もしも”の時の行動や未来もきっと変わっていくことでしょう。

「災害は常に想定外」幅広い視点や立場から得られる情報や考え方を日頃から学ぶことは、大切な命を守るだけでなく、不安や冷静さを失 った災害現場・被災地で、少しでも安全で安心な避難生活を送るためにも非常に重要なこと。

このコラムでは、「形ある防災グッズ」から「形なき防災グッズ」まで幅広い情報をお届けします。 必要な防災グッズや知識は人それぞれ違います。アナタにとって最適な“お守り”を準備し、“もしも”に備えて頂ければと思います。

ペットと防災

先月、新生活のスタート時は、防災対策の見直しのタイミングであるとお伝えしました。

進学・就職・結婚・出産など、生活の環境やスタイルが変わる場合はもちろん、たとえ自身の生活が変わっていなくても、あなたを取り巻く周囲の環境は知らぬまに変化が生じているものです。年度が変わる春の季節は、世間でもさまざまなことが、終わり・始まり・変更するタイミングですので要注意だとお伝えしましたが、あなたは実際にチェックしてみましたか?

さて、「家族構成の変化」で見落としがちなのがペットの存在です。「ペットも家族の一員」とおっしゃる飼い主さんは多いのですが、では、そのペットのための防災対策はどれくらいできていますか?

今回は、そんなペットの防災について色々とご紹介したいと思います。

ちなみに・・・。
「うちにはペットがいない」「動物は苦手」という方にも、是非読んで頂きたいと思います。

ペットと生活をしている飼い主さん(当事者)だけでなく、災害時におけるペット事情を周囲が理解・共有することはとても大切なことです。

「当事者でなければ関係ない」ではなく、「当事者のことを理解する」ことで、あなた自身の知識や物事の視野が広がり、相手の気持ちを想像し理解する力も高まるはず。誰もが常にそのような意識を持ち、互いに歩みよる姿勢でいれば、災害時の混乱した場面においても、無用なトラブルを避け、両者の考えを最大限に尊重した解決法をいち早く見つけることができるのではないでしょうか?

また、自分を取り巻く人たちが、どんなことに直面し、何に困り、どんな助けを求めているのか?を理解するということは【思いやりの始まり】にも繋がります。

これは、災害時・非常時の「助け合い=共助」においても不可欠です。 ですから是非、ペットがいる人もいない人も、みなさんご一読ください。

福島から学ぶ「ペットが命と心を守る」

そもそも災害時においての「ペットの避難」について、本格的に注目されるようになったのは東日本大震災だと言われています。それまでの災害でもたびたび問題視されてはいましたが、東北の震災をきっかけに、はじめて環境省で「同行避難のガイドライン」というものが作られました。

3.11の震災により国が動くほど「ペット(動物)の命」がここまで注目されたのは、福島の問題があったからです。 そして「ペットの避難」とは、動物の命だけでなく、実は人の心を守ることにも繋がるといわれています。

置き去りになった命

改めて思い出して下さい。そして、想像して下さい。

「地震」「津波」のほか「原発」という3つの災害に遭った福島県の各地域では、震災以降、非常に長い年月の間、我が家に戻ることが許されない市町村が多くありました。
「長い時間」それは、最大で 11 年半にも及びました。2022年10月に福島県双葉町での最後の「入居開始」がスタートすることで、全ての被災地で「故郷へ帰る」ことができるようになりました。けれど、それは一部の地域にすぎず、正確には今も生活することが禁じられた立ち入り禁止、すなわち「帰宅困難区域」と呼ばれる場所が福島には点在しています。

あの日・・・。

地震発生時、多くの被災者にとって津波から逃れる為、一時的に避難しただけで「我が家にすぐ戻るつもり」でした。多くの場所で地震により建物が崩壊し、そして沿岸部では津波によって大切なもをたくさん奪い去られてしまいました。本来ならばその後、宮城や岩手の地震の被災地と同じく、福島でも街や生活の再建を開始していたはずです。

けれど、待っていた現実は・・・原子力発電所の水素爆発。

福島第一原発周辺は被曝地域となり、その地域は発電所があった沿岸部以外の場所にも及び、人が立ち入れば僅かな時間でも命を落とすほど非常に危険な場所になってしまいました。「すぐに戻る」はずだった我が家や畜産場には、多くの生き物が避難することも救助されることもできない状況となったのです。

リードに繋がれたまま、ゲージに入れられたまま、畜舎に取り残されたまま・・・

そこには数え切れない「置き去りの命」がありました。

命の危険を感じても、その場所から動くことができず、逃げられず、餌を探すこともできずに命を落としました。 また、たとえ自由に動くことができたとしても、人間によって命を繋いできた動物たちは、食べ物を与えてくれる人が居なくなった場所で、容易く餌を見つける術もなく、やがて息絶えていきました。その他、動物たちの野生化・繁殖・共食いに加え、ペットの安否を心配するあまり、立ち入りが禁じられた地域へバリケ ードを破って入る危険行為をする人たちが現れるなど、さまざまな動物の命を取り巻く問題へと発展することになったのです。

また、震災によって生じた苦しみは動物たちだけではなく、飼い主にとっても非常に残酷な現実を突きつけられることになりました。

それまで愛情を注ぎ、共に生活してきた大切な家族の一員であるペットの命を「見捨てた」という後悔や罪悪感は、飼い主にとって想像を絶する苦悩となりました。

そんな置き去りになった動物の命を救うだけでなく、飼い主の方の心を守るためにも必要だと判断され、以降の災害時に推奨されることになったのがペットとともに避難する「同行避難」です。

「同行避難」と「同伴避難」

実は、この「同行避難」という言葉のほか「同伴避難」という言葉も存在するのですが、あなたはこれらを耳にしたことがありますか?ペットと防災を考える時に見かけるこの 2 つの言葉は似て非なるものですので、まずは、それぞれの意味を改めてご紹介しましょう。

  • 「同行避難」ペットとともに安全な場所まで一緒に避難すること
  • 「同伴避難」避難所でペットの飼育管理をしながら一緒に避難生活ができること(注意:同室で居られるかなどは各避難所によってルールが異なります)

多くの飼い主さんにとって望むのことは、当然「同伴避難」であり、最も理想的なのは「同伴避難所」の存在となります。 けれど、まずは人の命と生活を守ることが最優先である被災地において、これが叶う場所は少ないのが現状 です。

また、3.11 の震災を機に推奨されることとなった「同行避難」ですが、その意味はまだまだ正しく理解し浸透されてはおらず、その後の熊本地震でも「同行避難」を人とペットが同一の場所で避難し生活ができる「同伴避難」と勘違いしてしまったことにより、各地の避難所で混乱が多発しました。

災害時のペット避難については、今後のためにもまだまだ考えるべきことが多いのが実情です。そんな中、例えば災害発生時に一旦は同行避難をしたものの、避難所でのお世話が難しい場合、次のような対応も選択の一つです。例えば、被災した自宅では人間が生活するには厳しい環境だったとしても、庭先などペットが生活する程度の場所が確保できるなら、少し手間はかかりますが、避難所から餌やりなどお世話をするのに通うという方法です。

避難所生活が始まった後、どのように大切なペットの命と生活を守るのか?

「ペットの避難と避難生活」には課題が多く、だからこそ、日頃からさまざまなケースを想定した準備、すなわち防災対策が必要ということです。

「ペットが避難する」ということ

さて、災害時にペットが飼い主さんと一緒に避難するということは、具体的にどんな意味を持つのでしょうか?ここでは大きく2つの視点からご紹介します。

(1)「ペットの命を救う」

とてもシンプルなことですが、災害によって危険エリアとなった場所から安全なところへ避難する。これは、人も動物も 命あるもの全てにとって最重要なことでしょう。

また、飼い主とはぐれてしまったペットたちが被災地に放し飼いとなった場合、大型動物やワニ・ヘビ・かみつきがめ・ 猿などの特定動物たちはもちろん、普段はおとなしい性質の動物ですら、突然の環境の変化に驚き、怯え、人に危害 を加える可能性が懸念されます。それらを防いだり、餌を求めて民家や農地などを荒らすなどの被害も減らすためにも、ペットを置き去りにしないということは大切なことだと考えられます。

(2)「人の心を守る」

日々愛情を注ぎ、生活を共にしているペットは「家族の一員」です。その家族がたとえ動物であったと しても、災害時に一緒に避難できないということは、飼い主にとって非常に辛いこと。だからこそ、「一緒に避難できる(同行避難)」ということは、飼い主である被災者の心の負担を軽減させることができるのです。

また、慣れない避難生活の中、ペットがいつものように側に居てくれるだけで、心の緊張を解してくれたり、安心やひとときの幸せな気持ちを与えてくれる存在にもなるでしょう。

さらに、愛くるしい表情や仕草をする動物たちは「アニマルセラピー」としての役割を果たす場面もあります。非常事態に直面し、不安定になりがちな私たち人間の心を支えてくれる効果は、飼い主だけでなく、周囲の被災者にも与えてくれることが期待されます。

ただ、こうしたプラス効果がある反面、動物特有の匂いや鳴き声、衛生面、そして動物アレルギーや動物嫌いの方にとってはストレスとなり、トラブルとなることも多々あります。

「人と動物の命を守る」「人と動物が一緒に暮らす」ということには、平常時であっても問題になることが多いですから、災害時ではより一層難しく多くの課題を抱えているということも認識しなければいけません。

ペットのためにできること

では、突然やってくる災害に備え、ペットの防災ですべきことは何でしょうか?人間と同じように、それぞれに合った「ペット用避難グッズ」の準備は当然ですが、それ以外に日頃からしておきたい備えを幾つかご紹介します。

犬友・猫友・ペット友

避難所生活が長期化する場合、自分たちの生活だけでも大変な時にペットのお世話を長くすることは大きな、被災者にとって大きな負担になりがちです。状況によっては、安心して預けられるペットの一時避難所を事前に準備しておくことが大切です。

ご近所のペット友達は、平常時に発生する突発的な困り事の際、互いに助け合うには有効ですが、大きな災害時においては、おそらく同じように被災している可能性が高いはず。ですから、大災害時に備え、少し離れた地域も含め、あなたが安心して自分のペットのお世話を任せられる預け先を複数決めておくことがポイントとなります。

また、スムーズに依頼ができるよう「飼い方・餌やり方法・注意事項」などをまとめたメモを予め準備しておくようにしましょう。

迷子防止

突然襲ってくる災害は、ペットだって人間と同じように驚き、怯え、身の危険を感じれば咄嗟に避難しようとするものです。ただ、本能的に逃げ出したものの、自分の家(飼い主の元)へ無事戻れるとは限りません。

災害により混乱した現場では、「迷子犬探しています」のように平常時と同じような方法で自分のペットを探すことは難しいはず。
昨年、2022年6月からは犬や猫にはマイクロチップの装着が義務化されていますが、そのほかのペットも可能な限り身元がわかるよう、迷子札を首輪などにつけておくほか、ペットの写真や特徴などを記したメモなども事前に準備しておき携帯しておくと便利です。さらに、写真はスマホに保管すると同時に予めプリントアウトもしておくことをオススメします。

日頃の訓練

いざ災害が発生した時、スムーズに避難ができるようにする為、速やかにキャリーバッグやゲージに入ってくれるよう日頃から訓練しておきましょう。

もし、キャリーバッグなどを予防接種や病院へ行く時だけ使用していると、避難時にペットは「怖い場所(=病院)へ連れて行かれる!」と思い込み、大人しく入ってくれないだけでなく、何とか入れることができたとしても、恐怖で暴れたり鳴き続けたりして、移動中や避難先でも周囲へ迷惑をかけてしまう恐れがあります。

普段から楽しい場所へ遊びに行く時に使用したり、ご褒美の餌を与える場所にしておくなど、ペットにキャリーバッグや ゲージに対して良い印象を与えておく工夫が有効です。ペットが安心してリラックスできる場所にしておくことは、人もペットも双方にとってストレスを一つ軽減することにも繋がります。

また、見知らぬ人に向かってむやみに吠えない、噛まないなど、最低限の躾や予防接種を受けさせるなどは、飼い主 として当たり前の義務でありマナーです。その上で、ご近所とのコミュニケーションも大切にしておいてください。日頃 からペットを飼っているということを周知しておいてもらうことはもちろん、散歩の際にはきちんと挨拶をするなど円滑な人間関係を構築しておけば、同行避難する際にも一定の理解や協力を得られやすくなるかと思います。

ペットのストレス

どんな生き物も人間と同じくストレスというものを感じます。しかし、ペットは人の言葉を話せません。

鳴き声や行動や表情など、わずかな情報を元に、飼い主がその動物が発していること、求めていることを読み取ることでしかペットの精神的安定や体調の管理はできません。

だからこそ、災害時の環境であっても、そのストレスが最小限に押さえられるよう、平常時にどんな準備が必要なのか?「ペットのための防災グッズ」を揃えておくことは最も大切なことになります。

餌やトイレ・常備薬など生活をするための一式のほか、ペットがお気に入りのおもちゃなど、不安を少しでも軽減できるものなども是非用意しておき、愛するペットのストレスフリーを目指したいですね。

「ペットが避難する」ということは、私たち人間が避難することとは、また別の視点で想定しなければいけないことが多々あり、今回取り上げたほかにも、課題や準備すべきことはまだまだたくさんあります。

今、ペットを飼っている方は、まずあなたの地域がペットの避難について、どのようなルールを定めているか、どのような避難方法が選択できるのかなどをしっかり調べ、その上で最もペットにとって負担が少なく、且つ飼い主であるあなた自身が的確にペットの命と生活を守る為、最良の手段を想定し準備することが大切ではないでしょうか?

そしてなるべく実際に、ペットと一緒に色々な災害を想定し、防災訓練をしてみてください。準備していることがどれだけ現実的に可能であるかを試しておくことも大切です。相手は動物、思うように動いてくれるかは分かりません。ペットと防災、ここでも「知識を体験し経験へとアップデート」することが理想的な備えの形といえます。

このコラムでご紹介することは、全ての方が当事者の視点に立ち「もしも」を想定して知識を高め、理解を深めることを目標としています。災害の場面においても「多様性」が大切です。それを一人でも多くの方が日頃から理解し情報を共有しておくことで、はじめて災害時にも「思いやり」が働き、互いに抱えている問題を意識しながら、共に苦境を乗り越えられることができるのではないかと思います。

「ペットと防災」という知識も、誰もが持つべき防災に関わる大切な情報として認識しておきたいものです。

3.11 あの日から12年後の景色(岩手県・前編)

今年の3月10日から13日までの4日間、東北の被災地へ行ってきました。

前回に宮城県石巻市に変わって、今回からは岩手県を前後編2回に分けて、5月は大槌町(おおつちちょう)、6月は陸前高田市(りくぜんたかたし)をご紹介したいと思います。

岩手県大槌町(おおつちちょう)プロフィール

<まち>

  • 岩手県の三陸沿岸部のほぼ中心にある自然豊かな人口約1万人の町(2023年3月1日現在)
  • 沿岸部にありながら、町のおよそ9割を占める大部分は山林であることから「海の幸」「山の幸」いずれにも恵まれた地域
  • 「さんてつ」の愛称で親しまれている三陸鉄道リアス線が走るのどかな景色が広がる町

<観光・体験>

  • 大槌湾内に浮かぶ周囲約200m の小島「蓬莱島」は、大小の丘が連なる形から「ひょうたん島」とも呼ばれ古くから人気のある観光地のひとつ
  • 寄せる波はあっても返す波がないという世界でも珍しい「片寄せ波」で有名な「波板海岸」はサーファーにも人気の名所 (震災の津波と50cmもの地盤沈下により、南北に800mあった白浜の大部分は消失)
  • 「うにの殻むき体験」「海の森復活体験ダイビング」「地引網体験」「大槌鹿の狩猟見学」「鹿の解体体験」「ジビエBBQ」など、海や山の自然に恵まれた場所ならではの貴重な体験ができるアクティビティが豊富

<震災被害>

大地震と巨大津波の直後には火災も発生し、建物の全壊・半壊は町全体の約7割、商店街の98%が失われるという甚大な被害を被りました。

また、町役場は2階まで津波にのみこまれ、町長をはじめとする職員40名の命が奪われました。これは、役場全職員の4/1が犠牲になったことを意味し、震災直後は首長不在となり行政機能は完全に麻痺し、復旧・復興への第一歩は、他の地域より大きく遅れをとることになりました。

尚、震災翌年に警察庁から発表されたデータでは、岩手県内の死者数が3番目に多い803名、行方不明者数479名で、これは岩手県全体の1/3を占めています。

「風の電話」

波板地区の鯨山の高台にある庭園「ベルガーディア鯨山」にひっそりと佇む電話 BOX。

この庭園は私有地で、未来の子どもたちに「田舎らしい田舎」の中で自然を体験してもらい、感性と心を育む場所になることを願い、佐々木格さん自身が手作りで作った庭です。

庭の片隅にある電話 BOX は、当初はこの庭のオブジェの一つとしてやってきましたが、佐々木さんがご自分の従兄弟を亡くした際、あの世とこの世を繋ぐ静かな語りの場として設置し「風の電話」と名づけられ、現在では、東日本大震災で多くの大切な人を失った被災者の方のグリーフを和らげる場として解放されています。

大切な人との別れは誰だって辛く悲しいものですが、その別れが突然訪れたとき、よりいっそう深い悲しみに包まれて しまいます。

「もう一度会いたい」 「一言だけ伝えたい」 「声が聞きたい」

どうすることもできない溢れ出す想い、誰にも言えず心に抱えたままの言葉をそっと、風の音と鳥の声だけが響くこの庭の片隅にある電話が、静かに優しく受け止めてくれます。

電話BOXの中には、黒い電話とノートが一冊。 実際に受話器をとって大切な人と会話をする人、ノートに文字を綴る人、それぞれの形で「静かな対話」をする場所です。

たとえ被災者ではなくても、私たちは日々の生活の中で、大切な人やモノや時間を失ったり、突然奪われる場面が訪れた時、心に大きな悲しみをまとい、途方もない喪失感に包まれてしまうことがあります。誰にも言えない、誰にも言いたくない【心の声】を吐露するこの場所は、多くのグリーフを受け止め、和らげ、心の拠り所となっています。

敷地内には、ツリーハウスやアスレチックがある「木ッ木(キッキ)の森」や「海を望むガーデン」「森の図書館」などがあるほか、庭全体が1年を通じて様々な植物たちによって彩られ、四季をたっぷり感じられる場所にもなっていて、それらも庭にある全てが佐々木さんの手作りです。

とても素敵な場所ではありますが、ここはグリーフを抱えている人のために開放している私有地です。 観光地ではありませんので、それだけは十分に理解していただきたいと思います。

「グリーフ」とは「深い悲しみ」や「悲嘆」という意味。 震災のあとの【復興】は「街の復興」のほか「心の復興」が存在します。

この「心の復興」に必要なものが「グリーフケア」です。 グリーフとグリーフケアについては、2月に公開した「透明なお守りVol.2」のコラム内でも【心のケア】としてご紹介していますので、是非併せてご覧ください。

エピローグ

いかがでしたか?
今月の防災コラムの前半では、ペット(動物)に焦点を当てて防災を考えてみました。

「ペットの命を守ることは、人の心を守る」 動物の命を通して、普段とは違う視点で災害時について想像することも大切なことです。これを機会に是非、色んな想定であなたも防災について考えていただければと思います。

そして、東北レポ「岩手県・前編」では、岩手県大槌町をご紹介しました。この大槌町と来月お届けする陸前高田市は、ちょうど「あの日」から12年を迎えた3月11日に訪問しました。

被災地ではこの日「3.11」に対して、実にさまざまな受け止め方がされています。

大切な人との日々を思い出しながら心で対話する「特別な日」と考えている方も多くいらっしゃいますが、一方で「早く 1 日が終わって欲しい日」「思い出したくない日」」「話題として触れられたくない日」「一番キライな日」という方もいらっしゃい ます。

現地にマスコミ関係者が入り、テレビ・ラジオ・新聞・ネットで報道される様子を「忘れられていない」と安心する人がいる反面、「この日しか注目されていない」と憤る人がいます。

人それぞれ、色んな被災経験があり、色々な考え方があり、色々な受け止め方があり、色々な抱えている思いがある。

これは、災害だけではありません。
冒頭で連休の過ごし方について触れましたが、5月のこの時期、新生活において、少しずつ新しい環境に慣れて落ち着いてきた人がいる一方、緊張やプレッシャー、思い描いていたようにスタートがうまく切れなかった方にとっては、心に疲れが出てくる季節でもあります。

私たちは、例え「同じ場所」で「同じ時間」を過ごしていても、各々それの捉え方はさまざまです。

あなたの心に余裕がある時は、是非周りに少し目を配り、疲れている人や弱っている人、悩んでいる人がいないか気に留め、そしてもし助けを必要としている人を見つけたら、その人の心の声に耳を傾け、理解を深めようとしてみてください。これはいわゆる「傾聴」というものです。傾聴は、相手の心に寄り添い支えるだけでなく、実は、話を聞いたその人自身も、自分以外の人生に触れたり、違った視点でものを見たり考えたりする新たな視点を知る機会となり、広い視野や高い想像力を育むことに繋がるのではないかと思います。

災害時、人は互いに助け合いながら非常事態を一緒に乗り越え、命や生活を守らなければいけません。

日頃から、互いが少しでも他人に対して関心をもち、寄り添う環境が整っていれば、きっと災害時の苦労や問題も少しは軽減できるのではないでしょうか?

最後に・・・。

もし今、あなたが世間でいうところのいわゆる「五月病」で苦しんでいるならば、どうぞ無理せず焦らず、ご自身のペースで頑張ってください。本当に辛い時は、一度その歩みを完全に止めて、休むことも大事です。深呼吸して新鮮な空気を身体いっぱいに取り込んで、心身がリフレッシュできてたと感じたてからリスタートしませんか?

心が弱っている時、人は孤独を感じやすく不安を纏いがちですが、必ずあなたを心配して見守ってくれている人がいるはずです。しんどい時こそ勇気をもって、身近な人にSOS を出すことも大切です。

「あなたは一人じゃない」

自然災害は、人の力ではどうすることもできない猛威、残酷なほどに牙を向いてくる時があり、これまでの被災者の方たちがそうであるように、これからも私たちは絶望的な気持ちになるのだと思います。

だからこそ大切な「防災」そして、「一人じゃない」という言葉を信じることがきっと大切なのです。

さて、今回もここまでお付き合い頂きありがとうございました。 このコラムがあなたの災害への備えのヒントになっていますように・・・。

では、また来月お会いしましょう!

防災のあたらしいカタチ提案

見える防災グッズ Vol.5

ー 癒しグッズー

突然日常を奪う災害や避難暮らしは、誰でも不安やストレスを抱え、通常の精神状態ではありません。 たとえ、平常心を保とうと平気な態度を振る舞うことができたとしても「平常心を保とうとしている」ということ自体が、既に精神的負担となっていることは間違いありません。

緊急事態を生き抜くためには、誰もがある程度の我慢をしながら乗り越えるしないのが災害時です。
けれど、そんな中であっても、ひとときでも心の緊張をほぐし、不安から開放される時間を作ることは、心身への負担を軽減することに繋がるかと思います。

「心の健康」は、災害時にケアすべき大事なことの一つ。
今回は、防災グッズの準備をする際、衣食住をカバーする直接的な【命を守る】ものだけでなく【心を守る】ものにも目を向けることをご提案します。

遊ぶもの・おもちゃ

トランプ、おりがみ、オセロ、ぬり絵、お絵描きセット、パズルなど、一人でも複数でも遊べるものがあるだけで、ほんの一時、不安な気持ちを忘れることができるだけでなく、楽しいという感情を呼び起こしたり、笑顔になれるきっかけを作ることができます。

誰か一人が笑えば、その笑顔で心がホッとする人がいるかもしれません。また、その笑顔につられて一緒に笑う人がいるかもしれません。「笑顔の連鎖」によって、不安や不満、辛い・悲しい.・苦しいという負の感情が広がりやすい避難生活の中、互いの笑顔は、ほんの少し心が癒されたり気持ちをリフレッシュさせることができ、心に余裕も生まれることでしょう。そうした笑顔や心の余裕は、おのずと復旧・復興に向けて前向きに頑張ろうとする感情をも導いてくれるでしょう。

実際に、1.17や3.11の被災地において「ゲームなどで楽しむ時間だけは家族が笑顔になれた」などと体験談を語る方は非常に多くいらっしゃいます。

但し、避難所ではさまざまな方と一緒に生活することになります。ゲーム機などおもちゃの音や、遊びに夢中になりすぎて、思わず大きな声を出して賑やかにしているその側では、もしかしたら体調を崩し寝ている方がいるかもしれません。周囲への迷惑行為にならないよう配慮することも忘れないようにしたいですね。

そもそも避難所暮らしでは楽しく遊べる空間を確保することは難しいことです。けれど一方で、本来なら心身の成長を促すためにも伸び伸び遊ぶことも必要な子どもたちから、長期間その機会を取り上げることは避難所作りの際の課題にもなっています。また、遊びは広い意味でいえば、子どもだけでなく大人たちにとっても気分転換やストレス発散のために必要な行動です。

さまざまな制約のある避難所において、どんな遊びアイテムがあれば良いかを考えながら、防災袋に準備するアイテムを選ぶことも防災準備の一つの大事な要素です。

好きなもの・趣味

あなたの趣味は何ですか?読書・旅行・車・音楽・映画・アイドルなど、人それぞれかと思います。非常時の最中、普段通りに趣味を 100%楽しむ環境を作ることは難しいですが、あなたの「好きなもの」の一部だけでも側にあれば、多少は気が紛れるかもしれません。また人によっては、それらを眺めたり触れながら「落ち着いたら大好きな〇〇を再開しよう!」と目標を定めることで、苦境を乗り越えるための心の支えるになることもあるでしょう。

その他、防災袋の中に準備するグッズに、さりげなく自分の好きなブランドやキャラクターがプリントされているものを選ぶなども気持ちを安らげる工夫になるのでおすすめです。

落ち着くもの・人の温もり

お気に入りのタオル、好きな香り、人形、好きな人や風景の絵や写真、甘いお菓子など、自分がホッと落ち着くものの存在も不安定になりがちな心に安心感や冷静さを与えてくれるものです。

また、小さな子どもをキュッと抱きしめてあげることも大切だと思います。 この行為は、実は子どもに安心感を与えるだけにとどまらず、抱きしめた大人もまた、腕の中にいる人の温もりや小さな命の鼓動を感じ、心が落ち着いたり、元気や勇気をもらえる効果があるのです。

その他、小さな子どもにかかわらず、不安で心が震えている人や、無理に頑張ろうとして過剰に自らを鼓舞し今にも 倒れそうな人へのさり気ない言葉や静かな優しさも大切です。

「ありがとう」「そばにいるよ」「大丈夫だからね」「無理しないでね」「泣いていいんだよ」・・・ それぞれに合った優しい言葉を添えたり、ただ黙ってポンポンと軽く背中を叩いたり、ゆっくり摩ってあげることで、その人のピンと張り詰めていた緊張の糸を緩めることができるかもしれません。

いかがでしたか?

防災グッズリストには、是非、食料品や衣類などのほか、避難生活を送るための実用的なグッズだけでなく、あなた自身やあなたの大切な人たちの「心を守るための防災グッズ」も意識して準備いただければと思います。

筆者プロフィール

日経新聞まちかど人間録

筆者 プロフィール

石元 彩

西宮市の短大卒業時に阪神淡路大震災を経験し学生生活を突然打ち切られたまま社会人となる。

その後、1.17の震災を機に誕生したラジオ局「FMひらかた」に開局から閉局まで25年間携わり、後半11年間は東日本大震災の復興支援や情報を毎週発信するほか、常に社会に埋もれそうな小さな声やマイノリティの存在にスポットを当て、心に寄り添う言葉にこだわり番組を制作。ギャラクシー賞選奨2作品、奨励賞1作品受賞。


このコラムでは、これまで得た経験・知識・人脈、マスメディアの世界だからこそ触れられたもの全てを活かしながら、防災や災害、被災地の現状や被災者の声、さらには、その先に繋がる”生きるヒント”にもなり得るものを”見えないお守り”と称してさまざまな視点からお伝えできればと思います。

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